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Writer's pictureTekemori Hiroomi

『氷山の南』 池澤夏樹著 文春文庫


久しぶりに池澤夏樹さんの作品を読みました。初出は2009年ですが、物語は2016年という設定になっています。

砂漠の水不足を解消するために氷山を曳航して利用するというアイデアは70年代に実際にあったものだそうですが、この物語ではその曳航調査船に密航者として乗り込んだジンという18歳の日本の青年が主役です。

池澤さんの作品は、科学と工学と宗教・思想を同じテーブルの上で同じ温度で語られるところが好きです。今回の主な舞台となる船には多様な民族や宗教などのバックグランドが異なる人たちが乗り込んでいます。その人たちのそれぞれの立場や意見を丁寧に扱いながら物語は進んでいきます。船という密室の設定だから起こりうる展開や氷の世界の美しさなどの描写も素晴らしいのでおすすめです。

また、彼らの共通言語は英語なのですが小説内では日本語で書かれています。その日本語が英語の会話をベースにした言い回しになっていたりと高い技術の面白い文章だと思います。


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